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計画が実行された。
あいつの会社は潰れ、風姉から電話がかかってきた。
「月?」
「何?今忙しいんだけど。」
「大変なの!お父さんの会社が…」
「潰れたんでしょ?知ってるわよ。」
風姉はきっとお母さんから聞いたと思ってるんだろうが違う。
「お母さんから聞いたわけじゃないわ。」
どうせ今なんで分かったのって思ってる。
「お姉ちゃんみたいな単細胞のことなんか顔見なくても分かるわ。」
「お姉ちゃんに向かって単細胞って!!」
「だってそうじゃない。まぁ、お姉ちゃんだけに限ったことじゃないけど。」
「はぁ?何言ってるわけ?」
「あいつも馬鹿よね。株が買い占められてるのに気づかないなんて…。」
「え…?」
「私が買い占めたの。あんな会社、いらないわ。それとあいつらに言っといて。10時からのテレビ見るように。」
「ちょ、どういうこと?」
「お姉ちゃん、さすがね。無知なことは罪よ。じゃあ、私忙しいから。」
ブチ…。

そう、私はこれから記者会見に臨まなければならないんだから。

『皆様にお集まりして頂いたのは、他でもなく、私の会長就任と、今まで副社長としていた人物がフェイクだったことを明かすた

めです。』
『それはどういったことですか?』
『今副社長に就いているのは公にしていた人物と異なるということです。』
『なぜそのようなことを。』
『副社長は現在19歳になる少女です。社員も株主の皆さんも納得がいくわけがありません。ですからある程度実績を残してから明
かすということを当初から決めていました。』
『その少女を副社長に就任させた経緯は?』
『彼女は優秀でした。私にユノーを作らせるきっかけを作りました。あれは彼女の案なのです。彼女を雇うことになり、仕事をさ
せると、通常の人が2時間かけるものを10分でおわらせるくらいです。それで、丁度空いていた副社長のポストに入れることにし
ました。これでいいでしょうか。』
『その彼女はここには来ないのでしょうか?』
『いえ、今から登場してもらいます。では、入ってください。』
私は会見の場に立った。
『ご紹介に預かりました、宮迫月です。今回、正式に副社長というポストに就けたことを大変嬉しく思っています。』
『あなた…ユノーのCMにも出ていませんでしたか?』
『はい。彼女は、副社長と兼任で広報の部長もしておりました。これからは副社長だけに専念してもらいますが…。』
『ということは、あの話題のコラボであったROSE+moonのmoonでは?』
『はい。そうです。彼らにはとても貴重な体験をさせてもらいました。私の仕事の都合で音楽番組には1つしか出れませんでした

が、好評だったことを嬉しく思っています。』
『なぜ、副社長になることを承諾したのですか?』
『それは、私の実力を発揮できる場所だと思ったからです。』
『それと私が会長就任で空く社長のポストに我が息子の高瀬明を就任させます。』
そう言った直後に入ってきたのは明さん。
『私が高瀬明です。』
『あなたもCMに出てましたよね?』
『はい。他の男性が彼女の相手役をさせるのは許せなかったので。』
『それはどういうことです?』
『私たちは婚約してます。』
『では、神楽が彼女に恋してるという噂も…?』
『それはいえません。』
『記者会見はこれで終了とさせていただきます。』

ふう。疲れたわ。
私たちは今日は帰っていいということだったから、部屋に戻ってきた。
「お疲れ。」
「明さんだって疲れたんじゃない?」
「俺は最後だけだったからそんなに疲れてないよ。」
「静真、ちゃんと言ってるかしら…。」
「ん?静真って誰?」
明さんは明らかに不機嫌な顔をした。
「友達よ。家族に説明するように頼んだの。裕真くん知ってるでしょ?」
「ああ。」
「彼のお兄さんなのよ。高校時代の親友の一人。」
「でも、彼はただの親友って思ってないんじゃない?」
「ん…そうね。告白されたわけではないんだけど。まぁ明さんと結婚するって言ったし。」
「そっか、それならいいんだ。」
「風姉次第なんだよね。」

「月?我慢しなくていいんだよ?おいで。」
明さんは両手を広げて俺の胸に飛び込んでこいと言わんばかりの表情。
言うとおりに彼のもとに近づいた。
彼の腕の中は暖かかった。
目から零れる大量の涙。
「月はよく頑張った。」
「う゛ん。」
「俺がずっと傍にいるから。」
「う゛ん。」
「だから今からお父さんたちのところへ行こう?」
「ぃや…。」
「どうして?」
「合わせる顔がないもの。だってひどい娘でしょう?私。」
「俺が話すから。ちゃんと。だって本当は月、家族が大好きだもんな。」
「でも…でも…。」

ピンポーン

「月。いるんでしょう?どういうことなの?事情を話して。」
鳥がきたようだ。
「俺、出るね。」
明さんが玄関に向かう。

「月、説明して。」
「何を?」
「風から聞いた。あんたが父さんの会社を潰したってこと。しかも立て直したかったらうちの社長に風を差し出すってことも。」
「う〜ん。私がここに入社する条件がこれ。父さんの会社を潰すことが条件だった。」
「なんで?」
「なんで?って聞く?」
「鳥さん。月は気付いて欲しかったんです。月の類稀なる才能に。だけどいつも家族の目は皆あなたに向けられていた。自分もで
きると言ったときにはもう遅かった。隠し続けてたから誰も信じてくれない。去年の出来事が決定打だったんです。」
「去年?」
「そう。鳥さんは聞いてないんですか?」
「もしかして、喧嘩した話?」
「多分それで合ってると思います。」
「それがどうして?」
「誰も助けてくれなかった。過呼吸になっても、お母さんはお父さんを怒らせたことで叱りに来て、次の日なんか口も聞いてもら
えなかった。」
「え?」
「独りだった。いつも。心はずっと独りだった。もう限界だったの。だから報復してやったの。」
「じゃあなんで風を?」
「あれは鳥のところの社長が風を欲してた。一目惚れだって。私が援助するわけにもいかないでしょ?だから、頼むことにしたの
。」
「え?」
「あれは私の意思じゃない。受けるも受けないも風姉次第なの。」
「そう。あんた、縁切ろうとしても無駄だから。私は絶対に切ってやんないから。」
「鳥。」
「あんたは優しすぎるのよ。」

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