(Episode1)

俺は正直言って女にモテまくっていた。
絶えず隣には彼女がいて、彼女がいないっていうことがなかった。
笑いかければ女の子たちは誰もが僕に恋に落ちる。
そう、あの娘が現れるまで。


最初はただ興味本位なだけだった。
彼女は俺よりも優秀で、俺よりも論理的だと親父は言う。
ただ俺よりもすげー奴だから逢ってみたいと思って、親父に頼んだ。
俺は専務で、勿論自分で勝ち取った地位。
彼女に逢う機会など皆無だった。
彼女はいつも派遣として会社にいるし、週に二日はK県の大学で研究をしている。
逢う機会など本当にない。

親父に紹介され、最初まではいつもどおりだった。
「はじめまして。高原明です。あなたが副社長の宮迫月さん?」
「はい。はじめまして。」
本当に19歳?
なんか本当に25歳くらいに見える…。
しかも相当な美人。
「君…19歳なんですよね?」
「そうですが。何か?」
「いや、綺麗な方だと思って。」
これは素で思った。
「そんな褒めても何にもなりませんよ?」
「いや、お世辞ではないです。」
「またまた〜。」
彼女は顔を真っ赤にしている。
なんだ、今までの女と同じじゃん。
そう思ったとき、彼女の顔はすぐに切り替わって今度はぼーっとしている。
何を考えてるのかな?
もしかして俺のこと?
もう少し意地悪しちゃおうかな?
「父さん!俺決めた。この娘と結婚する!」
「う〜ん。彼女はいい子だし、いいよ!」
親父は異論はないようだ。
でも、まぁ冗談だし。
ん?
あの娘、口をぽっかーんと開けてる。
「考えが丸見え!面白いね!この娘!!」
「私もあんな表情初めてみるよ。彼女は普段表情に出さないからね。いつも冷静沈着。本当にびっくりしたんだね〜。」
その言葉に彼女ははっとし、またぼーっとした顔している。
ということはぼーっとしている顔がいつもの表情ということか。
「あぁ、終わっちゃった…」
めったにないことなんでしょ?
もったいねぇ。
「ゴホン! 私、あなたとは結婚しませんから。あなたみたいな人嫌いなんです。」
ふうん。
嫌いなんだ。
嫌いって言われたの初めてだな。
でもまぁ、大嫌いじゃなくてよかったけど。
「良かった〜、大嫌いじゃなくて。」
親父が命令だって言って婚約したわけですけど、
「…本当に物凄く、死ぬほど不本意ではありますが、仕事増やしたくないんで、承諾します。本当に不本意ですが!」
この言葉はひどくない?



目の前には結婚式場。
月の姉の花の結婚式が行われている。
今となって思うこと。
本当は一目ぼれだったんだ。
冗談だって言ったのは自分をかっこつけるための嘘。
俺が初めて好きになった女性。
彼女は本当に冷静で基本的に何を考えているか分からなくてミステリアス。
またそれが綺麗で。
嫉妬とかいう感情も初めてだし、独占したいって思うのも初めてだ。
だから出来るだけ一緒にいるようにした。
なんか形だけの婚約者って嫌だって思ったから。
それからというと彼女の本質が少しずつ見えてきた。
例えば、仕事になると厳しくなったり、爽といると二人して俺をいじめてくる。
まぁそんなところもすっげーかわいいの。
嫌がっているんだけど、相手が傷つかないような言葉を選ぶし、歪んでるんだけど、家族想い。
でも、家族の話をするときちょっと悲しい顔する。
何がそんなに悲しいの?
俺には言えない?
俺に頼って欲しいんだ。
無力かもしれないけど、そんな顔してほしくないんだ。
本当は頭の中を俺で一杯にしてずっと俺の傍で笑っていてほしいんだ。
だけど、そんなこと無理だから。
まだ、君の顔は俺の方を向いてないから。
本当に好きすぎて困ってる。
本当に狂おしい程君のこと愛してるんだ。
俺は君のためなら何でもできるよ?
君に貶されてもいい。
君が悲しい表情をせずにすむのなら。




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