(30)



『会いたい。』

そんなメール。
戸惑わないほうがおかしい。
誰からって?
私がもう恋なんてしないって決意させた張本人。

今は勉強中だけど、これから仕事にもどらなければならないし、会えるわけがない。
『無理。』
『バイト?』
すぐに返信がくる。
『まぁ、そんなものかな。』
バイトか…。
そんな生半可なものならいいのだけど。

「珍しいね。」
「ん?そう?」
「そうだよ。大体月は仕事の電話くらいだろ?兄さん?」
「ちがうよ。」
「へぇ、友達?」
「まぁそんなとこかな。」
友達?ニュアンスが少し違うんだよね。
「もしかして、男?」
「なんで?」
「意味深だったから。」
「ん〜爽には言うけど、元彼。」
「え?!元彼って…なんて内容?より戻したいとか?」
「そんなこと…ないと思うけど。」
「でも、月は綺麗だし。案外そうかもよ?」
「ただ、会いたいってだけだから。どうせ無理だし。」

今度はメールじゃなくて電話がかかってきた。
「ダメ?」
「うん。何か用なら今聞くけど。」
「会って話したいんだ。」
「今更何を?別に会う必要はないでしょ?」
「なんか雰囲気変わったね。」

「月!!誰と話してるの〜?」
奴が来たようだ。
「兄さん。黙って。」

「ねぇ、今の声って男だよね。誰?」
「関係なくない?」
「まぁ…そうだけど…。でも、俺には言えない人?」
別に言えなくはないけど。一人は。
「家庭教師とその兄なだけよ。」

それを聞いた奴は
「それちょっとひどくない〜?」
「まぁはずれてはなくない?」
と返事する爽。

「ふぅん。家庭教師か…。何習ってるわけ?」
「英語よ。それ以外ないわ。私が習う言語なんて。」
「え?英語って成績良くなかった?」
「あぁ、一見良かったわね。勉強してなかったからどう抑えればいいか分かんなかったのよね。」
「それってさぁ、実は成績って俺なんて目じゃなかったとか?」
「まぁ…そうなるわね。だってまぁ隠してたわけだし。」
「なんで今は隠さない?」
「隠す必要もないから。だってあなた、もう私の彼氏じゃないもん。」
そう、もう彼氏じゃない。
私があの時どうしても欲しかったあなたの彼女というポジション。
今はもう過去の話だったけど、好きな人に知られたくなかった。
実は全国レベルでもトップクラスだってことを。

「彼氏!?月…今元彼と電話してるのか?」
「らしいね。」

「そう…だよね…。でも、俺は月に会いたいと思ってる。」
本当に今更何?
本当は気付いてるわよ?
けど気付かないフリをする。
「無理よ。あなたは知らないだろうけどこっちは忙しいの。」
「バイトか?」
バイトね…責任感が問われないバイトなら会えるわよ。
「バイト?笑わせるわ。これがバイトならどれだけ気が楽か。」
「なら俺が会いに行く。」
迷惑ね。そんなことされたらばれちゃうじゃない。
「やめて。私に会いに来ても、会えないわ。今、話して…。」
「会えない?なんで?」
「私はただの大学生なら会えたかもね。」
「それ…どういう意味…?」
分からないの?
彼も落ちぶれたものだ。

すると、奴が私の携帯を奪った。
「会いに来るなら明日の午後8時にT都まで来い。」
「お前誰?」
「俺?本当に何も知らないんだな。彼女の周囲の奴は。いいか?他言でもしてみろ。お前の家族諸共路頭に迷うことになる。」
「なっ。」
「俺はお前もその家族を潰すことくらい簡単に出来る男だ。月を傷つけたらただじゃおかない。まぁ俺がするより彼女がお前なん
か片手で潰すだろうけど。」
「どういう意味だ!!」
「お前馬鹿?本当に月はこんなやつのどこに惚れたんだ…。」
「いいか?明日の8時までだ。」
ぶちって奴は私の携帯をきった。

「あんた何すんのよ。」
「何って?決まってるだろ?」
奴は至極真剣だ。
こいつ…只者じゃないって最初から知ってたけど多分敵にしたら苦戦する相手…。
私と同じ…。
「俺が気付かなかったと思う?月が切ない顔してるの気付かないとおもうか?」
胸が締め付けられる。
気付いてたんだ…?
言葉とは裏腹に昔のことが思い出されて切なかった。
もう彼のことが好きじゃないってことは本当だけど、あのときの私を思い出したら…。

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