(1)

今まで何も感じるものはなかった。
ただ自分を隠すだけ。
自分を出すと嫌われちゃうから。
でもあなたが私をモノクロの世界から引きずり出してくれた。
あなたの存在がどれだけ大きかったか、あなたは知らないよね?
あなたと過ごす日々はどれもがとても輝いていて、そのどれもが宝物なの。
あなたともう少しだけ、ううん。ずっと一緒にいたかった。
ちゃんと遠くで見守っているから。
でもね、どうか朧月夜のときだけは私を思い出してほしいな。
一緒に過ごした日々を思い出してほしいな。

*SIDEおぼろ

「佐藤さん、ノート見せてくれん?」
そうクラスメイトの少女は言った。
「あ、うん。どうぞ。」
「ありがとう!さっすが持つべきものは友達やね!」
“友達”だって。
そんな定期考査の前くらいしか話さんのにね。
私は佐藤おぼろ。
福岡県在住の高校1年生。
成績は常にトップ。
親の期待に答えないかんので、そこにおるのは当たり前。
やけん、いつも定期考査前だけ友達面してこうやってノートをねだりにくるっちゃん。
まぁ、私にはそんなん必要ないけん、どうでもいいことっちゃけどね。
この成績のおかげで友達なんて一人もおらんし、別に作りたいとも思わんし。
中学まではバスケ部に所属しとったくらいやし、運動は一応いい。
成績のためとはいえ毎日ジョギングとか、筋トレとかしとる。
容姿はいたって普通。
何を血迷ったか告白してくる輩がいるが、やっぱ客観的にみると、平凡としか言いようがない。

こんな状態に嫌気がさしてないかと言われると本当はつらいって言いたい。
だけどそんなことを言ってくれる人はいないわけで、なんとか頑張ってきた。

…帰るか。
そう思い、立ち上がって帰り始めた。
自分の世界を180度変えてくれる運命の人と出会うとは露知らず。

自転車通学なため、自転車置き場へと向かう途中、体育館からバスケットボールが前方に転がっていた。
バスケか…なつかしいな…。
そう、昔のこと考えていると、体育館から声がした。
「きみ〜!!そこのボールとってくれん?」
言われたとおりボールを手に取り、体育館に近づいた。
「サンキュ!助かった!」
そう言った少年はボールを受け取ると、部活に戻っていった。

あれって、校内一のモテ男って言われとる、笹野翔?
噂には聞いとったけど、まさかあんなにかっこいいとは…。
まぁ、彼のファーストインプレッションはそんなもんだった。


*SIDE翔
「今から30分間、シュート練習。」
そう言うと、コーチは席を立った。
シュート率を重視とするチームなので、シュート練習が2時間とかざらにある。
そうそう、俺は笹野翔、高校2年生。
男子バスケ部に所属しとる。
一応エースだ。
勉強の方面はあまり芳しくないけど体育の成績はピカ一!!
容姿はというと、校内一のモテ男らしい。
あんまり自覚したことはないっちゃけど、新聞部の記事でいつもそう書かれとうけん認めざるをえん。
まぁ、何度も告白されたことはあるんやけども、今は部活が第一!

あちゃー、シュートはずしちまった。
しかも外に出てったし。
最悪やん。
ふと外を見ると女子学生がひとり、ボールの方へ向かっている。
ラッキー♪
「きみ〜、そこのボールとってくれん?」
彼女はその言葉に気付いたようで、ボールを持ってきてくれた。
「サンキュ!助かった!」
そう言うと俺は練習に戻った。

あの娘、確かちかっぱ頭良くて、綺麗な女子が入学してきたって噂されとった佐藤おぼろ?
めっちゃかわいかった!!
今日は何かついとう!!
(ちかっぱ=物凄く)
でもなんか眼が寂しそうやったね。
もしかして、バスケしたいっちゃないかいな?
バスケ経験者とかやったら絶対したいなって思うやろうし。
てか、あんな女の子がマネージャーやったらもっと頑張れるのになぁ。
彼女の同中のやつ探して聞いてみよ!!
名づけておぼろにマネになってもらう作戦やし!


それが二人の出会いだった。

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