(1)

「未羽さん、僕と付き合ってください。」
「ごめんなさい。あなたとは付き合えません。」

今日で何回目だろうか。
こんなつまらない人間と付き合っても意味ないのに…。
意味はあるか…どうせ私は飾り。
親友だと思ってた友人も所詮飾りとしか思っていなかった。
だから、彼氏だった男を横取りされ、ぽいと捨てられた。
「騙されるのが悪い。」
彼女はそう私にはき捨てた。
そして、当時の彼氏もあっさり親友に乗り換えた。
「いいアクセサリーだった。」
もう、恋なんかするもんか、彼氏なんか作るもんか、そう思わざるを得なかった。
それから、私は孤独。
誰にも心を許すことはない。
だけど、唯一、裏切らない人がいる。
古本屋の店主のお爺さん。
古文を読むのが好きな私は小さな頃から通っていた。
彼は無表情になった私に変わらず接してくれた。
面白い本とか教えてくれ、意味が分からない古文の意味を教えてくれた。
それだけが心の安らぎだった。

紹介が遅れたが、私の名前は井上 未羽。
高校2年生だ。
両親と祖父がいたが、中学のときに交通事故で三人とも死んでしまった。
父からは剣道、母からは弓道、祖父からは合気道を叩き込まれた。
彼らはそれぞれの師範で有名だった。
彼らが死んだのは私の弓道の全国大会の応援に向かう途中だった。
彼らの死を知らされたのは弓道で3つ目となる全国制覇が決まった後のことだった。
それから遺産目当てで親戚からうちへ来ないかと誘われたが、全て断って一人暮らしをしている。

今日も古本屋へ行こう…。
そう思い、古本屋に立ち寄った。
お爺さんがいつものごとく、にこやかな表情をしている。
「いらっしゃい。今日はこの本を貸してあげるよ。」
そう言って、いつもより分厚い古めかしい本だった。
「時代は?」
「セルシウス期。時が来た。未羽さん、あなたは運命の少女です。」
さっぱり意味が分からなかった。
「どうゆうことですか?」
「冒頭を読めば、分かります。」
そう言われたので、読もうとしたが、字が日本語ではなかった。
でも、言葉が頭に浮かんでくる…不思議な感じだった。
勝手に口に出して読んでいた。
「蒼き狼なり…。」
そう言うと本から光が溢れ出し、目の前が真っ白になった。


気がつくとそこは森だった。
先程まで古本屋に確かにいたのに…。
ここはどこなんだ。
考えられることは、本の中のその言語がある世界にいるということ。
地球ではないと直感的に思った。
今手にしているものと言えば教科書とお菓子が入っている鞄と学校で練習するために持ってきてた弓だけだった。
それにしても、暑い。
着ているものは吸収力が乏しい、夏の空色のセーラー服。
これから、どうすればいいのか…
ふと気付くと先程の本が落ちていた。
でも、様が違う。
古本屋では確かに中には文章が書かれてあったのに、中は白紙だった。
しかし、幸いにも地図が描かれてあった。
自分が今どこにいるのか分からないが、人に遭遇したときに聞けばいいのだ。
兎に角、まずは森からの脱出。
そう思い、とりあえず歩き出した。

数時間後、人の気配がした。
一応身構えた。
最初に遭遇した人物が善人とは限らない。
いきなり、剣を手にした輩二人が襲い掛かってきた。
「殺すなよ!!売るんだから。」
「分かってる。女だからちょろいぜ。」
そう聞こえた。
腹が立った。
だから、飛び掛ってくる奴らを、得意の合気道で間合いをとり、隙を突いて奴らの剣を奪てやった。
すると、
「こいつ…何者だ…」
奴らは同様し始めた。
なにせ武器をとられたのだから。
殺すなと言っていたことから、この国では斬ってもかまわない世界なのだろう。
でも、殺しなんかしない。
ひとまず、状況把握が先決だから。
奴らの背後に周ると
「抵抗しても無駄。ここがどこか、教えろ。」
そう脅すと、こいつらも命は奪われたくないと思ったのだろうか、正直に答えてくれた。
「てっテペウの樹海だ。」
地図を頭にいれていたので現在地がひとまず分かり、解放してやった。
「命は奪わないが剣は返さない。失せろ。」
そう言うと一目散に逃げていった。

もう夕暮れ時だった。

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