(2)

取りあえず、水源を探した。
さすがに、鞄の中にあったお茶も尽きかけている。
なんとか湖に辿り着いた。
綺麗な湖だった。
ここに、野宿か…。
タオルを濡らし、体を拭き、そのタオルをまた湖で洗う。
そして、木の枝にかけ、干した。
食べ物は鞄の中にある、カロリーミートとパイの果実だけだった。
ひとまず、こんな生活がいつまで続くか分からない…
だから、できるだけ食料の確保をしたかった。
よって食べたのはカロリーミートひとかじりだけ。
あとは湖の水で空腹を抑えた。
原始的な方法で火をつけ、その明かりでお爺さんに貸してもらった本を見てみた。
先程までは冒頭部分には蒼き狼なりとしか書かれていなかったのに文字が増えていた。
「動物の声聞こゆ、蒼き狼なり?」
本がまた、光った。
「えっ?何が起きてるの?」
訳が分からなかった。
すると、光が収まり、今度は声が聞こえた。
『あれが運命の少女?』
『変な服着てる。』
『異国の服だからだよ。』
周りを見渡すと二羽の鳥しかいない。
確かに近くで聞こえる。
まさか…
そんなこと、あるわけない。
でも、さっきの文の意味、動物の声が聞こえると書いてあったし…。
恐る恐る、声をかけてみた。
「あの…運命の少女ってどういうこと?」
『あの子、ひとりごとかなぁ。』
「ひとりごとじゃ、ないよ?」
『もしかして…僕たちの声聞こえてる?』
「うん。」
『やっぱり、君が運命の少女なんだ…』
『ね?僕が言った通りでしょ?』
「ねえ、それより、運命の少女って何?」
『そっか、異世界の人だもんね。』
『運命の少女は預言者が言った、この国を救ってくれると言われている少女なんだよ。』
「それが…私?迷信じゃないの?」
『この世界で預言者の予言することは必ず起きる。』
『だから、この国の人たちは君を待ってた。』
「この国ってえっと…ここがテペウの樹海なら…コーラーっていう国なんだよね?」
『うん。そうだよ。』
「あと、この世界では盗賊とかを斬ってもオッケイなんだよね?」
『そうだよ。よく知ってるね。』
「さっき、盗賊みたいな人たちが売るから殺すなって言ってたから。」
『殺したの?』
「ううん。脅して、この森の名前を聞いて逃がしたの。」
『強いんだね。』
「そんなことないよ。」
『この国を救ってね。きっとだよ?』
「私が本当に運命の少女なら…」

鳥たちが去ると眠りについた。

起きると、荷物を持って、街を目指した。
どの方角に街があるか鳥たちに聞いていたので、その方向をひたすら歩く。
人を斬るのは抵抗がある…しかし、止むを得ない場合は覚悟が必要。
また、襲われる可能性だってあるのである。
剣道をしていたから、多少は大丈夫だと思う。
そして弓がある。
自分が生きるためだと自分に言い聞かせていると盗賊が襲ってきた。
昨日奪った剣で応戦する。
気付いた。
こいつら弱い…。
斬られそうになったので思わず斬ってしまった。
血しぶきなんてごめんだと思い、すかさず後退し、血しぶきから逃れた。
覚悟はしていたもののやはりいい気分ではない。
そう思っていると数人に囲まれてしまった。
「お前ら何が目的なんだ。」
そう尋ねると
「お前が運命の少女なら高く売れる。力づくでもお前を捕まえる。」
やはりな。
金品を持っていない私が襲われる理由なんてそれしかない。
服装が違うからすぐ分かるということが昨日の鳥たちの会話で分かったから。
仕方ない…。
そう決心すると奴らに斬りかかった。
あっという間だった。
所詮雑魚。
悪意のある人間を殺したところで、もう殺してしまう恐怖など覚えない。
人間不信だったから。
一応この盗賊の持ち物を見た。
街に出たところでお金がなければ何も食べられないし、変装する服も買えない。
盗賊たちから金を持ち出し、少し休憩した。

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