(9)

その夜、不思議な声がした。
『…きて、ミュー。ねぇ、起きて。』
「ん?」
その声は聞き覚えがあった。
なんか懐かしいような、そんな感じの声。
「誰?」
『僕だよ?ミュー。昔一緒に遊んだじゃない。』
一緒に遊んだ?
今も昔もあまり友達がいなかった。
だから、聞き覚えがあるといっても、該当する人物が思い当たらなかった。
『川で、一緒に遊んだでしょ?』
「!!」
そういえば見ず知らずの子と川で遊んだことがあるかも…。
『思い出してくれた?ずっと傍にいたんだよ?』
「え?」
『生まれたときから。君が。』
「あなたは誰なの?姿を見せて?」
『せっかちだなぁ。僕は精霊だよ?』
「え?本当に?」
『嘘じゃないよ。』
そう精霊さんが言うと辺りが少し明るくなった。
その姿は小さな羽根の生えた5〜6歳の男の子。

かわい〜!!!
『ミュー!かわいいとか思っただろ!こう見えて1000歳は超えてるんだから!』
「うそ!!」
『本当だよ。こんなことで嘘言っても仕方ないだろ?』
「えっと、それで何の精霊なんですか?」
『当ててみて。君にぴったりな精霊だよ。』
ぴったり?
さっぱりわかんない。
『分かんない?』
「え…うん。」
『戦いの精霊だよ。守護は狼。今はこんな姿をしてるけど本来の姿は青年の容姿なんだよ。』
「へぇ〜。戦いの精霊か。」
『使い方は君次第だけど、武器の生成とか、力を高めたり、素早くしたり、とにかく戦いのこと全般に関して君にしてあげることができるよ?』
「え?本当?」
『炎の精霊とかだったら魔法の炎属性の力がパワーアップするけど、僕の場合は魔法も含め戦い全般なんだ。』
「…すごい。今までに契約した人って…」
『いないよ?君だから契約しようと思ったんだ。というか、その遊んだときに契約したんだけどね。』
なるほど…私の武術の腕が良かったのはそのためか。
妙に納得できる。
『君が一人になったときとか親友に裏切られたときとかとっても心配だった。君の前に姿を現すわけにはいかないしね。ごめんね?あの時は何もできなくて。』
「ううん。いいの。今が幸せだから…。」
『僕も君が幸せなのが嬉しい。ほっとした。』
「ありがとう。」
『これからは君の力になるよ。君の中にもう呪文とかは存在するから、必要なときに僕を呼んで?』
「うん。ありがとう。」
『君はこの世界を変えるただ一人の少女だから。蒼き狼と呼ばれる所以は僕の影響もあるのかもね。』
「そうかもね。私も、君に気付かなくてごめんなさい。私の実力って本当はたいしたことなかったのね。」
『それは違うよ?僕は呪文を唱えられなければ力を与えることはできないから。だから、君の実力は本物だよ。』
「え!!」
『君は類まれなる才能を持ってる。だけど、時にその才能は人を陥れる。でも、君はそんな風にはならない。君は客観的に自分を見ることが出来、人間の醜さも痛いほど分かってるから。』
「そうならいいんだけど…。」
『君にこれをあげる。』
渡されたのは矢だった。
『弓は君に相応しい一級品のものだけど、矢がだめだとその弓の価値が半減する。この矢を使えばその弓の本当の価値を見出せるよ。』
「本当の価値?」
『うん。それは僕のお父さんが作ったものだからね。それはそれは素晴らしいものだよ。矢が分身してるかのように錯覚させるんだ。』
「そんなのあり?」
『勿論。実際は一つだからね。君の腕を持ってすれば敵を困惑できるよ。』
「本当に?」
『うん。』
「ありがとう。」
『じゃあ、また呼んで。って言っても本当はずっと傍にいるんだけどね。』
ウインクをして精霊さんは消えた。
名前聞いとけば良かった…。
うっかりしてた。
このこと皆に伝えたほうがいいのかな。
そう、思いながら明日に備え、再び眠りに就いた。

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