(6)




「父様。行かれるのですね…。」
「ああ。達者に暮らせ。わしが少しでも良い世にしてきてやるから。」
「私はただ父様の無事だけを祈ってます。」
「こら。そのようなことを言うな。決心が鈍る。」
「でも…。母様が亡くなって、私には父様だけが家族なのです。私の花嫁姿見てはくらないのですか?」
「見たい…。そりゃ見たいが…。」
「それなら帰って来て下さい。必ず。」
「ああ。分かった…。」


父であるジョン・コーラルは家を出た。

あれから1週間経った。
マーガレットは不安だった。
どちらも死んで欲しくないからだ。
でも、互いに牙を向き合ったら?
必ずどちらかが死んでしまう…。
そのことが頭の中を駆け巡った。

いてもたってもいられなくなったマーガレットは武装して家を飛び出した。

「どうか、二人とも無事でいて…。」

辺り一面死人の山。
死臭が漂うその場所に二人はいた…。

いた…とはもう言いがたい状態だった。

「うっ…。」
ジョンはその場に倒れた。

「父様!!!」

マーガレットはジョンの元に駆け寄った。

「死なないで…。父様…。」
「ごめんよ…。マーガレット…。わしは…お前の花嫁姿が見れんよ…ぅだ…。」
「ぃやー!!!!!!!」

マーガレットの背後から声がした。
「マ…マーガレット?」

「遅かった…。あなたと父様が戦いあうかもしれないって分かってたのに。もう少し早くに来ていれば…。」
「まさか…リーダーのジョンが貴女の父上?」
「ええ。そうよ。私はどちらにも生きて欲しかった…。私の家族はもう父様だけだったもの。」
「そんな…。」

マーガレットは何か覚悟したようにセシルを見た。
「私、あなたに恋したことを後悔してないわ。
だから、お願い…。
私を貴方の手で殺して…。
父様がいなければ、私、貴方とも結婚できない…。」
「しかし…。」
「父様を殺した貴方とはもう、いられないのよ…。
貴方といられない人生、死んだも同じ。
お願い…私を殺して…。」
「マーガレット。僕も君を愛してしまったことを後悔していない…。
ただ、この状況に陥ってしまった自分を悔いずにはいられないんだ…。」
「きっと…私たちは今、結ばれる運命ではなかったのよ。
来世できっと私たち結ばれるわ。
きっと私、また貴方に恋をする。
だから、貴方に殺されるなら、本望だわ。」

マーガレットはセシルの剣を持っているほうの手をとり、自分の胸にその剣を突きつけた。

「さよなら。愛してるわ、セシル。
私は貴方のこと忘れないわ。
だから、忘れないで…。私のことを。」


グサ…


「う゛・・・。」

胸を紅に染め、倒れこむ少女と呆然と立ち尽くす青年。
セシル・トライバルはそこに咲くことのない花があるのに気付き、手に取った。
いつか見た、青い花。

それは勿忘草だった。

BACK* SERIESTOP* NOVEL* INDEX* NEXT