(18)

え〜と、決まったこと。
車がゼウスなので男目線のCM。
んで出演するのは私と奴のみ。
車に乗った奴が恋人である私を迎えにいって一緒に浜辺を歩く。
でもこれは男の回想であって、恋人だった女を未だに想い、車を走らせるというちょっとしたラブストーリー。
そんな感じにしようということになった。
曲のほうも同じようなラブソングで彼女を想い、彼女の元へ行きたい衝動に駆られるという感じの曲。
ん〜、まぁ私は少ししか出ないからいいんだけどもね。
あれから、数時間話し合ってこういう方向で進めることになった。

「なんかさ、すっげぇいいものが出来そうだよな。」
「彼女のアイデアといい、高原くんのとかよく思いつくよなって感じ。」
「いい機会だしさ、今日どっか一緒に飲みに行かね?」
「私はこの打ち合わせで仕事が終わるんで、行きます。」
そうなんだよ。こんな日は飲むに限る!
まだ成人してないけど。
皆は真似しちゃ駄目よ!!
「彼女が行くのなら私も行きます。」
やっぱね。来ると思った。

それから喫茶店を出てこじんまりとした居酒屋に来た。
「蛍原さんって名前何だっけ?」
「星羅です。」
「かわいい名前だね。」
「でもこの名前は少し照れくさいです。」
「はは。そうかもね。」
「高原くんは?」
「私は明と言います。」
「ふうん。で、星羅ちゃんは神楽のメンバーとかに告白とかされたんじゃないの?」
「…ぇえ?あぁ、まぁ。」
全員から言われたって言うわけにもいかないし、そんなん言ったら奴がうざくなるし…。
「図星?」
「本当?ちゃんと断った?」
奴が私を問い詰める。
なんでこの人たちは奴を煽るんだ!!
「彼らのプライベートに関わることなので…お答えできません。」
これが一番無難な回答だろう。
下手に否定すると多分信じてくれないだろうし。
なんてやっかいなアラフォーの人たちなんだ!!
あ、言うの忘れてたけど、彼らは30歳代の後半。
それでいてこの美形なんだから、羨ましいやらなんやら。
「まぁ、彼らに聞けばいいことだしね。」
「それにしても、明くんは星羅ちゃんにぞっこんだね。」
ニヤリとするSINさん。
「当たり前です!!こ〜んなにかわいいんですから。」
「それはいいとしてNAOさんとは知り合いですか?」
「この娘、完全にスルーした。」
「面白い娘だな。」
「ですからそんなことはいいんですよ!!NAOさんと知り合いじゃないんですか?」
ここ重要よ!!
NAOとは私のこよなく尊敬する女性歌手で、もう大大大大大ファンなの!!
彼女の透き通る声とか彼らと同じアラフォーでもむちゃくちゃかわいい顔とかもう憧れ!!
「はは。そうだったね。うん。友人だよ?」
「本当ですか!?ファンなんですよ!!いいなぁ。」
私が一人盛り上がってる中、完全スルーされた奴はいじいじしている。
そんなことあってもそれはそれは居酒屋では大盛り上がり。
もうすっかり意気投合しちゃってカラオケ行こうぜ!!ってことになった。

「星羅ちゃんなんか最初に歌って!!」
「え〜!!…いいっすよ♪」
そう言って十八番のNAOの曲を歌う。
「…星羅ちゃんまじ歌上手くない?」
「うん。下手なアイドルより断然上手い!!」
「俺、すんげぇいいこと思いついちゃった。」
「奇遇だな。俺もだよ。」
俺も、俺もと後の二人も同意した。
「俺らと一回共演しないか?」
「え?」
「うん。素顔がばれたくないんだったら…う〜ん、仮面とか?被ったりして。」
「え!?」
何言ってんの!?この人たち!!
無理っすよ!!
歌うの好きだけど!
だけど、人前で歌うのとか絶対に無理!!
殺人的なスケジュールの中、そんな時間割けないよ!!
「駄目です!!彼女は仕事がありますんで!!ただでさえCMがあるんですし。」
よく言った!!
かなり見直したぞ!!
「せっかくNAOちゃん紹介しようと思ったのになぁ…。」
「やらせていただきます!!!」
ちっくしょー!!
あんなん言われたらやるっていうしかないだろ!!
せこいな!!
「月が踊らされてる…」
奴がそんなこと呟やいてたことなんか全く知りもしなかった。
それくらい、盛り上がった打ち上げだった。

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