(25)


「ん…。」

朝か…。
ん?

私のベッドに手をついて眠りこけている。

「ずっと看病してくれてたんだ…。ありがと。」
熱を出したせいか、素直にぽろっと言葉が零れた。

それにしても整った顔。
下手なモデルより断然いい男なのだ。

まじまじと奴の顔をみていると…

ん?

顔がほんのり赤い…。
まさか。

そう思って奴のおでこに手を当てると、とても熱い。
「すごい熱じゃない!!」
奴を起こさないようにそっとベッドから這い出るとひとまず奴を寝かせることが第一優先だったから、起こさないようにそっと寝

かせた。
奴ってやっぱり適度に筋肉とかついてるし、私より断然背が高い。
ベッドに寝かせるのは一苦労だった。

それから体温計を取りに居間に行き、戻ってこようとしたときだった。
「…ぇ、月…お…いだから、…れを…、すきになって…。」
そんな呟きが聞こえた。

胸に抱いたことのない痛みを覚えた。
でも、今はそんなことで立ち尽くしている暇はないのだ。

「熱、測るからね。」


ピピッ

「38.2℃…。ひどい熱じゃない…。」
「ん…。」
奴を起こしたみたいだ。
「大丈夫?あんた、あたしの熱移っちゃったみたい…。ごめんね?」
「ん…大丈夫。大したことないから。それより月が元気になって良かった。」
「何言ってんのよ!38℃越してるのよ?大したことあるわよ。今日は、私の所でじっとしてなさい。看病くらいはしてあげるから

。」
「なんだか、熱が移って得しちゃったな。」
「何言ってんのよ。ばか。」

正直、こんな自分自身に驚きを覚えた。
私が…奴を?
そんな馬鹿な。
もう、恋をしないって決めてたのに…。
これはきっと何かの間違い…。
そう、きっと…。

******************************

高校1年生の初夏。
私は一人の少年に恋をした。

矢野博明。

それは短い春の訪れ。
そして長い冬に導く春だった。

私が彼を気に掛けた理由。
それは…。

彼は隣の席だった。
初めての席替えで真ん中の列の前から2番目。
右にはいずれかなり仲が良くなる友人の城川百合。

運命の歯車はこの席替えで動き始めた…。

まだ、彼に何も抱いていないこの頃。
彼は入学者テストで学年2番だった、そんな印象だけだったあの時。

私はただ、ただ過ぎていく日常をただ、ただなんとなく過ごしているだけだった。
自分の能力を隠しながら、それでも学年1番だった私。
初めてのテストだったから、他の人たちのレベルが分からなかっただけ。

そんな私と彼。






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