(26)


それはある現代社会の出来事。
その日はビデオ鑑賞だった。
一つの長机に二人で教室と同様の席順で座る。
私は当然の如く城川百合と座るものだと思っていた。
しかし、運命の神様は私に意地悪をした。
そう、私の隣は矢野博明、その人だった。

彼はもう、私のことが嫌いなのかってくらい端に座っていた。

失礼なやつ。

私は思いっきり自分の荷物を広げた。
なんだか、その時はとても腹が立ったのだ。

それが彼に対して意識をし始めたきっかけ。

彼の容姿は良かった。
クラスメイトの女子の誰もがクラスで一番かっこいい男子に選ぶくらい。
でも、最初はかっこいいだなんてそんなこと意識したことはなかった。
だけど嫌われてるのではないかと意識し始めてからは彼のことをよく見るようになった。
それと同時進行で他のクラスメイトの男子の南静貴と仲良くなった。
静貴は中学の友人と同じ塾で、気が合う奴だった。
そして私の前の席に座っている。

運命の時は刻々と迫っている梅雨明けの期末テスト。
私はまだ自分の実力を発揮しないでいる。
中間テストでは4位。
まずまずの結果に導いた。
でも、4位なわけで友達に勉強を教えていた放課後。
思わぬ人から質問された。

それはあの矢野博明だった。
世界史は苦手らしく珍しくきいてきたのだ。
彼は私を嫌ってたのではなく、照れからだったらしい。
彼に接していくうちに惹かれ始める自分に気付く。
テスト勉強なんてはかどるわけないが別に勉強しなくてもできる頭が憎かった。
恋の方向に走ったばかりにテストは全て万点。

「月!あんた全部万点!?」
百合は驚きながら言った。
「はは、たまたまだよ。」
ただ制御できなかっただけ…。
「でも、あんた勉強してないって言ってたじゃん!!」
してないんだけどね。
「そうだっけ?」
「そうだよ!!あ〜あ、羨ましい!!」
その話を聞いた静貴は
「うわぁ、嫌味かよ。それ。」
「ちがうよ。あんただって点数いいじゃん。」
そう、彼もまた頭が良かった。
「お前の点数に比べりゃ屁みたいなもんだよ。」
「そう?」
「当たり前よ。だってミスが何にもないんだから!!」
「はは。」
もう、笑うしかなかった。

初めて自分の胸に抱いた恋心。
これが恋だと気付くのは安易なことだった。
だけど初めてだから戸惑った。

そうしていくうちにクラスマッチの時期になる。
クラスマッチはというか、クラスマッチでした友達と遊ぶ約束が私と彼の距離を縮めた。

「ねぇ、月って好きな人いないの?」
「ん〜、気になる人はいるかも。」
そう誤魔化した。
だって、好きだと言うのは少し恥ずかしかったから。
「誰?」
「矢野くん。」
「あぁ、かっこいいもんね。」
「ん〜、そうだね。」
「メールとかしてる?」
「ううん。メアド知らないもん。」
「静貴から聞こうか?」
「え?」
「てか、聞くし!」
そういい始めると早速百合はメールし始めた。
こんなに嬉しいことはなかった。
彼とはめったに話さないから。

こんなに嬉しすぎて、ドキドキすることなんか今までの人生なかった。
恋することがこんなに楽しいこと、幸せなことだなんて知らなかった。


矢野君が私と同じ気持ちならいいのに。
そう思わざるをえなかったんだ。

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