今の状況。
①秘書は２人。
②年齢は25歳に詐称。
③他の社員には派遣社員と思わせる。
④表向きの副社長は日高さん。（ちなみに日高さんの本職は私の秘書である。）
⑤大学は月、火の二日のみ行って研究に没頭すれば単位はとれる。
⑥家族には内緒。
⑦もしこのことを他言する場合契約書にサインしてもらう。
⑧大学の友人たちにはすでにサインしてもらって状況を知っている。
⑨新しい部屋はどちらも高級マンション。
⑩ベッドがふかふか。
そう、これが今の状況。
補足しておくと⑥は社長と話し合ってある計画のために内緒にすることになった。
ある計画がどんな内容で、それがどう遂行されるのかはまた別のはなし。
ちなみに今T都の部屋でメイクをしてもらっている。
これをしているのは秘書である、相川柚月（あいかわゆづき）２５歳である。
彼女はプロのヘアメイクアーティストで、童顔の私を２５歳に見せ、送迎役のためだけの執事みたいな秘書だ。
姉と同い年であるため、親しみを持ち、今ではすっかり仲良しだ。
「出来上がり！私ってやっぱり腕あるわ～。鏡見てみ？」
そう言って私に手鏡を渡す。
「うへ？これ私ですか？」
こりゃたまげた。
ほんと別人に見える。
「そうよ～。」
「まさかこんないい女になるとは！！」
そういつもの冗談を織り交ぜる。
「あんた元々顔の出来がいいから簡単だったわ～。」
っつうかいい女ってところつっこめよ！
否定しろよ！
「…これだと絶対に19歳とは分かりませんね！」
「うん♪じゃあ行くわよ！」
「はい。」
いざ、初出勤！とはいっても今日から1週間は慣れるために研修を別の場所で行う。
――――――――――――
まずはデータ処理の練習から。
カタカタとキーボードをたたく音のみが聞こえる。
それから15分後ピタと音がやんだ。
日高は集中が切れたかと思い、声をかけようとすると、
「あっ、丁度終わったんですよ！ナイスタイミングですね！さっすが！」
驚きが隠せなかった。
それは15分なんかで終わるわけがないものだから。
普通の人で2時間くらいかかるものをたった15分で！？
ただキーボードをたたくだけなら誰でも出来る。
しかし、それは的確な判断と計算を要するものだ。
「多分それでいいと思うんですが…どうですか？」
確認しても訂正するところが全くない。
初めて社長が100年に一人いるかいないかの逸材と言っていたことを理解することができた。
「…間違ってました？」
何も言わないことに不安に思ったのだろう、日高ははっとして
「素晴らしいです。まさか普通の人の何倍もの速さで完璧に終わらせてしまうとは。」
「そうなんですか？」
月もこれには驚いたようだと日高は思った………本当は当たり前じゃと思っているとは露知らず。
「ではちょっと休憩していてください。社長に連絡しますので。」
と日高はそそくさと出て行った。
なぜ、月がそんなに早く終わることができたかというと…彼女がぼーっとしていると言われる理由と同じである。
同時に何個も考えることが出来たら、あとはそれを打ち込むのみ。
その打ち込むのに時間が15分かかったというだけである。
日高が入ってくると、
「えー、もう明日から副社長の仕事をしてもらうために本社に出勤してもらうことになりました。
あなたの場合仕事をこなすスピードが半端ではないのでもう一つの役職をしてもらいたいと思っているんですが…
このリストのどの部署に興味がありますか？」
そう言うとさっと紙を差し出した。
そこには広報部、企画部、人事部…といくつも並んでいる。
あたしが目に付いたのはというと、広報部だ。
CMには非常に興味がある。
「広報部ですかね…」
と曖昧に答えておくのも忘れずにそう言った。
「そう思いました。社長があなたならきっと広報にいくと言っておりましたので、そこのポストをさっき空けました。」
これはまさかの部長の肩書きか…。
まぁそれも悪くない。
「ではこれから副社長と広報の仕事の内容を覚え、理解していただいて、それで今日は終わりです。」
日高が入りなさいというと一人の人が沢山の資料を抱えて入ってきた。
その多さに一応がっくりとすると、
「本当はそんなにがっくりしてないでしょう？」
と日高に言われ、内心ドキっとした。
「そんなことないですよ？社長も日高さんも買いかぶりすぎです。
いくらなんでもこれは結構時間がかかりますよ…。」
ふふと日高は笑った。
「まぁいいでしょう。それと、この者が部長代理を行う秘書の瀬野です。
あなたが派遣社員に扮しているとき、私とこの瀬野がメールで逐一仕事を送ります。
私たちへの指示もメールで行ってください。」
と言うと、資料を私に渡して自分の仕事を始めた。
数時間後、読み終わりましたと言って相川の運転する車に乗って月は帰っていった。
本当に読み終わったのは読み始めて1時間後だなんて二人が知る由もなく。