(4)

父の私を蔑む目…もう私はいらない子なの?
私には期待してくれないの?
もう私には…


朝から嫌な夢を見たものだ…こんな感情もうとっくに消えたかと思っていた。
「気付かず泣いていたのか…。」
そうつぶやくと、出社する支度をはじめた。
相川は8時に来る。
それまでに朝食やストレッチ、洗顔、着替えなどして相川を待った。

ピンポーン…


ガチャと音がすると相川が入ってきた。
「おっはよ〜ん♪」
朝からテンションが高い。
ちなみに私は低血圧なので朝はすこぶる機嫌がよろしくない。
「おはようございます。」
「なんだその挨拶!!お姉さんはぷんぷんだぞ?」
一体どんなキャラ設定で入ってきたのか、いささか気になるものの敢えてそこは指摘しない。
「では早速、メイクしてください。」
「つっこめよ。まぁいいわ。朝が弱い月ちゃんのためにお姉さん頑張っちゃう♪」
だから何設定だって。
「はいはい。」
それから数分後、私は本社に初出社したのだが…
なんつー広さだ!
と圧巻している(表情には出てない)と、瀬野が近寄り、広報部まで案内してくれた。
「えー、今日からこの部署の部長を務める瀬野貴之です。よろしくお願いします。
そしてこっちが派遣社員の蛍原星羅さんです。」
「蛍原星羅です。よろしくお願いします。」
ちなみにこの蛍原星羅は偽名である。
偽名の由来はこの作者に聞いてくださいとでも言っておこう。
自己紹介が終わり、自分の席でパソコンを立ち上げると早速今日の予定が送られてきていた。
なんと分単位の行動だ。
どれだけ事務的な作業を終わらせ自分の時間にするかが問題だと思っていると、隣から
「私、松永由美。よろしくね。んで、蛍原さんって何歳?」
「25歳ですよ。」
あぁ、時間が…
でも、仲良くしておいた方がたぶんいい方向にいくんだけど…もったいねぇ、時間が。
「私も25歳だよ!じゃあせいらって呼んでOK?私のこともゆみって言って!」
「分かりました。」
にこっとすると由美は驚いた顔をしている。
「悩殺スマイル…ってせいら!敬語はなしだよ!!」
これはやばい。
本当は年上だから敬語になっちゃうんだよね。
本能的に。
「私、普段から敬語使ってるんで、癖で直せないんですよ。」
と誤魔化すと
「そっか、ならしょうがないよね!うん。じゃあ仕事慣れないだろうけど頑張って。」
言われんでも頑張るっつうの。
そう思うと作業にとりかかった。
無駄な時間を浪費したためにぎりぎりだった。
一応スケジュールどおりに仕事をこなしていくとすでにお昼時だった。
「あっせいら!お昼食べいこ?」
と言われたもののこれから新CMの打ち合わせがある。
どう断ろうかと1秒くらい考えていると、背後から声がした。
「蛍原さん、昼に事務室で書きたりない書類を記入する予定でしたよね?」
なんという救いの手。
まぁ、この人は秘書だから打ち合わせについていかなければならないのだし、当たり前の対応か。
「あっ!そうでした。すみません、ゆみ。そういうことなので。」
「大量に書類がありますから、夕方までかかるかもしれませんね。では、いきましょう。」
「そっか…じゃあ明日、一緒に食べよう?」
「了解です。」
彼女曰く悩殺スマイルをして別れ、瀬野と一緒に相川が運転する車に乗り込んだ。

「さっきは大変でしたね。副社長。」
「はい。少しまいりました。今回はあれで逃れられたものの次からどう断るか。」
「彼女は優秀ですよ?話してみたらいかがでしょう。一人くらい味方をつけておいてもいいのでは?」
「そうですね。あの系統の人は信用できますしね。考えてみます。」
「さっきからぁ、あたしをのけ者にしてなぁんの話してんのよ。」
「あなた副社長にむかってなんですか!!その言い方は!」
「瀬野さん、むきに言う必要はありません。あなたの悪い癖です。彼女は私にとって姉みたいな存在ですから。
それに、今からの打ち合わせでは私は部長です。お忘れなく。」
「副社長…」
「だから、何の話かって言ってんの!」
「同僚が昼食の誘いをしてきた話です。」
「なぁんだ。そういうことか。あ、着いたよ〜。」
「ありがとうございます。」
「はいはぁい。じゃ、頑張ってね♪」
「……。」
瀬野はさっき私に指摘され気分悪かったが、副社長の言うことなので柚月に何もいえなかった。
年下ながら作業の早さなど自分とは比べ物にならないくらい速いし、判断などの正確性や彼女の顔の裏側にある頭脳明晰さには敬うものがある。
よって彼は月を尊敬し、彼女の言うことには絶対的なものだった。
彼は足を引っ張るまいと意に決して、打ち合わせに臨むのであった。

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