(37)


「月の料理は本当に美味しいよなぁ。」
「不味いなんて言ったら食べさせないし。」

そう、奴は私の部屋にやってきた。
勿論部屋は別々。
断固として拒否しました。

「俺、幸せかも。」
「大げさね。」
「いやいや大げさじゃないし!」
「仕事がまだ山ほどあるんだから!早く食器持ってきて。」
「は〜い。」

計画実行まであと1ヶ月。
正式に副社長になることから広報部長の地位からは外されることになった。
でも、引継ぎとかしなきゃいけないから、まだまだ仕事は残ってる。
それが大変で。
あ、今日、社員に正式に私が副社長で、奴が社長に就任することを公表する。
勿論、社員は他言禁止だ。

「月〜!いよいよだね!」
「柚月さん…。そうだね。認めてくれるかな…皆。」
「認めざるを得ないよ!だって業績上げたのは月のおかげじゃん?」
「まぁそうだけど…。」
「月らしくないね!!胸を張れ!」
「そだね!ありがと。」
「よし!!あ、会社に着いたよ?頑張って!!」
「うん。」

緊張する…。
けど頑張るしかない!

公表は社内放送で行われる。
「えー、来月から、トップが替わります。私は会長に就任し、専務だったこの高原明が社長に就きます。今まで、皆さんには黙っていましたが、副社長である日高は本当の副社長の影武者でした。この、今まで派遣として働いていた、蛍原星羅さん改め本名、宮迫月さんが副社長です。彼女が副社長に就いてからの業績は皆さんもお分かりになるでしょう。彼女は広報部長としても働いていまして、ゼウス、ユノーのCMの反響など一目瞭然です。今回、正式に宮迫さんを副社長として迎え入れたいと思ってます。宮迫さん、一言。」
「初めまして。宮迫です。皆さんを騙していたことはとても申し訳ないと思っています。今回、実績も残せたことから正式に副社長に就任します。今までは広報部長も兼任していたのですが、これからは副社長一本に専念したいと思ってます。私から皆さんへのプレゼントとして…。」
私は、仮面を被った。
「これでお分かりになりますでしょうか。まだ、マスコミには言ってないので内密に。」
「これで、社内での公表を終わりにします。皆さん仕事に戻ってください。」

社内の反応はさまざまだった。
『あのmoonが副社長だったとはな!!』
『副社長って19歳って噂だけど本当?』
『俺、専務…社長の婚約者って話も聞いた。』
『あの業績見せられちゃ認めざるを得ないよな。』
『しっかし、美人。』
『あんな小娘が副社長とはな…。』
『でも副社長と部長の仕事を兼任ってどれだけすごい人なんだよ、あの人。』
『ユノーのあの素材の研究もしてたらしいよ。』

噂話…まぁ全部本当のことだけど、そんなのが一気に駆け回った。
私はというと副社長室で書類を作っていた。
新しい車の開発の資料とユノーなどの売り上げの資料を見ながら。
「副社長。神楽がお会いしたいと申しているのですが…通しますか?」
瀬野が言った。
「うーん。仕事しながらでもいいなら会うって言ってください。」
「承知しました。」

「月!」
「すいません。仕事中で。で、何か御用ですか?」
「あいつと結婚するって本当?」
「あーそれですか。まぁ、私の誕生日を過ぎたらそうなりますね。」
「俺たち君のことが好きだって言ったよね?」
「確かに聞きました。」
「…返事もらってない。」
「あー、言ってませんでしたね。」
「お前、おちょくってんのか?」
「何がです?」
「手をとめろよ。」
「いっときますが、仕事しながらでもいいというなら会うと言ったはずです。今、手が離せないんです。」
「あー、分かったよ。もうお前なんか好きじゃねえ。」
「そうですか。まぁ私は明さんを選んだので。」
私は手をとめた。
「傍にいてくれたのは明さんだった。いつの間にか好きになってしまったんです。皆さんの好意は嬉しいですがそれにお答えできません。すみません。」
「俺たちが傍にいたら俺たちのことを好きになってくれた?」
「それは…分かりません。」
「そう…。」
「…仕事中にごめんね。…でも俺は諦めないから。」
「それは私の意志ではないですから、好きにしてください。」
私は再び手を動かし始めた。
「すみません…。副社長はこれから会議がありますので、お引取りを…。」
瀬野は口をはさんだ。
「分かった。また来るから。」
「ええ。では。」

彼らは帰っていった。
「瀬野。ありがとう。」
「いえいえ。副社長が困っていたのが人目で分かりましたから。」
「顔に出ないタイプなのにな…。」
「もう、何ヶ月も共に仕事しておりますんで多少分かりますよ。」
「…そうですよね。あ、この書類出来たんで、目を通してもらえます?」
「承知しました。」
「では、私は社内をまわってきます。」

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