(6)

「瀬野。あれをもってこい。」
「はっははははい！！！！」
初めて敬語がなくなって恐怖を覚えたのだろう。
1分後に契約書の紙を持ってきた。
「何も言わず、それにサインしてください。
このことは他言せぬよう念のための書類です。」
「つまり、お前は副社長？」
「正確には、副社長兼部長兼研究員です。」
「「「「はぁっっっ！？」」」」
「えっそれらの仕事全部してるんですか？」
「敬語はいりません。私、どうせあなた方よりも年下ですから。」
「…はぁ、本当の自己紹介してくんね？」
「宮迫月、19歳。K大学工学部マテリアル学科1年。大きな肩書きは副社長。社長にヘッドハンティングされました。」
「すっっごいねぇ〜。」
「…会社のイメージのため？」
この人は本当に最低限のことしか言わねぇな。
「それだけではないです。あらゆることのため企業秘密です。社員は私のことただの派遣と思ってますし、両親から旧友まで知りません。」
「なるほどね。まさか19歳とはね。」
「えぇ…サインしていただけました？」
「ぜぇーったい、言わないし〜♪」
「分かってます。あなた方が口外するとは思えません。」
「そんなに信用していいもんか？」
「えぇ。」
「…君、聡すぎて分かるだね。」
「そんなことないです。」
我慢し切れなかったのだろう。瀬野が
「副社長は聡いとかそういう次元ではございません！！尋常じゃない情報処理の速さと正確さ！それは一般の人の何十倍です。
もう、これは神です！」
あぁ、言っちゃったよ。
いつか言うんじゃないかと思ってたがまさか人気アイドルの前でするとは…。
「瀬野。黙れ。」
「おっかしー。ってか、ゆえ、メアド交換しよ〜。」
「もちろん。いいですよ？」
「「「抜け駆け！！」」」
意味わかんねぇ。
「は？脈絡ないんでよく意味分かりませんが、皆さんにお教えしますが…。」
結局皆と交換したわけだ。
「副社長、次の仕事が入っておりますので、そろそろ…」
「そんな時間でしたか。では、失礼します。」
「あっゆえ。今日何時まで仕事？」
「瀬野。何時までありますか？」
「副社長次第ですが昨日と同じ量の資料に目を通してもらいます。」
そんだけか。
今は夕方の5時。
多分ご飯の誘いであろうと思う。
「…それなら1時間後くらいにはおわりますね。」
「えぇ？昨日は5時間かかってませんでした？」
「その大半は今後の計画方針を考えてました。それも昨日で終わりましたし、ざっと1時間くらいですね。」
二人の会話に4人は驚きを隠せないようだ。
「ふっおもしれぇ。どうせヨウはゆえに飯誘うんだろ？じゃあ、食うところはFIVEでいいんじゃね？」
「そうだね。僕もそこでいいと思う。けど、僕が先に誘っちゃう。ゆえ、今晩ご飯食べにいかない？」
「まぁ、いいですが…」
「あー！！ずっりぃ。俺がゆえに言おうとしてたのにぃ。」
今更ながら思うが、なにゆえ私は名前で呼ばれてるのか！？
「…皆ゆえのこと狙ってるからだよ？」
こいつ私の心読みやがった。
「…表情には出てないけど、思ってることなんとなく分かる。
他のメンバーは分かってないみたいだから安心して。」
そう、耳元で囁いた。
なんというか、やっぱりかと思ってしまう。
まぁ、OKなんて絶対にしないけど。
「じゃあ1時間後、またここで。」
そうキョウヤは言うと4人は去っていった。

車に乗り込むと相川が変わらず迎えてくれた。
「瀬野。」
「はい。」
「お前、今から副社長と言ったら、秘書からはずす。蛍原さんと言いなさい。」
「了解しました。」
とぉーっても反省しているようだ。
「瀬野ちゃんなんかゆえを怒らせたの？」
「打ち合わせであたしのこと副社長って言いやがりました。」
「なるほどね。そりゃ、ゆえが怒るわけだ。人を呼び捨てするのなんか初めて聞いたし♪」
「もっ申し訳ありません！！」
もう！だーかーらー
「忠義を尽くすのは結構ですが、それがあなたにとっての穴になりかねません。普通に年下と思うくらいがあなたにとってもプラスになりますよ。」
「…そう…ですね。今日のでよく分かりました。仕事以外ではゆえちゃんと呼んでも構わないでしょうか。」
「喜んで。こんな車の中でもどうか敬語で話しかけないでください。元々敬語で話されるのは苦手なので。」
ほんといい傾向だわぁ。
「じゃあゆえちゃんも俺たちに敬語使わないで？」
「そうそう♪」
こいつらなら…
「う〜分かった。ほんとは堅苦しくてめんどかったんよね〜。でも、相手が年上だとなんつーか、部活体質？みたいな感じでつい敬語になっちゃうんよね〜♪」
「ゆえちゃんキャラが違う…」
「本来ってか友人とはいっつもこんな感じだよ？」
「なぁんかゆえの新たな一面見れて超うれしい♪」
「はいはい。」
そんな話してると本社の副社長室に通された。
それでみっちり1時間仕事をした。