(3)

*SIDEおぼろ

昨日、噂の笹野翔と出会ったことなどすっかり忘れて、いつもの午前中を過ごしていた。

キーンコーンカーンコーン…

昼休みになったか…ご飯食べよ。
そう思っとったら
「さっ佐藤さん!奥野先輩が呼んどうよ!」
ひろくんか…何のようやろ。
出入り口のところに行ったら、昨日会ったあの笹野翔がおった。
何ゆえいらっしゃるのか…。
とりあえず
「ひろくん。何か用?」
「あー、俺が要があるんじゃなくて、こいつ」
この人が私に?
なんで?
ただボール拾っただけなのに。
つうかお腹空いたけん、はよ席に戻りたい…
「あっそうそう。俺が用あるっちゃん。昨日はボール拾ってくれてサンキュな。「それだけですか?」」
そんなことのために呼ばんでよ…
あんたのファンに目付けられんの嫌やし。
「いやいや、それだけじゃないとって。えーっとつまり、マネージャーせん?」
「えぇ!?」
なんで!?なんでそうなった!?
「昨日なんかボールを寂しそうな眼で見とったけん、バスケ好きなんかなぁって思って誘ってみたわけ。どう?」
あの時見られとったっちゃね…。
確かにまたバスケしたい。
バスケが出来んくても関わっていたい。
だけど…だけど…
「…親が何と言うか分からないので、…すいません。」
そう言うしかなかった。
「おぼろちゃん、今の話、まんざらでもないっちゃろ?おじさんたちに話すだけでもしてみたら?
何もプレイヤーじゃないっちゃけん、成績も落ちんって!」
「そうそう。俺らも手伝うし。」
絶対に反対するよ…パパって頑固やもん。
でもね、やっぱバスケ好きなんよ。
絶対無理って思う気持ちの中に許してもらえるかもしれんって思ってしまう自分がおる。
誰かにそう言ってもらえたら、勇気が出るんやないかいなってちょっと思っとった。
応援してくれる人がおるって思うとちかっぱ頑張れる。
いつもそうやったから。
「…親に相談してみます。」
気付いたらそう言っとった。
「じゃあ決まったら連絡して?えーっと、はい、これ。登録しとって!」
そう先輩が言うと先輩のメアドが書かれた小さな紙をもらった。
「…分かりました。」
あたしがそう言うと先輩たちは去っていった。
「んじゃ、いい答え待っとうけんね〜!」
「じゃな!」

昼休みがいつの間にか終わっとって、結局昼ごはんは食わずじまい。
午後はどことなく上の空。
今の位置におるのはまぎれもなく勉強に専念しとったおかげ。
塾なんか行かんくても東大レベル。
でも、部活をし始めたら?
パパたちが私に過度の期待をしとる。
パパたちはどっちも東大で、超エリート。
私は彼らのためにもレベルをキープせないかん。
また大好きなバスケと関われると思う反面、そんな不安を胸に抱いていた。
私はパパたちみたいに天才肌じゃない…
そんなことを家に帰り着くまでずっと考えとった。

パパが帰ってきて、家族3人、食卓を囲む。
意を決して、
「パパ…私、バスケ部のマネージャーにならんかって言われた。」
「お前は…どうしたいと?」
「私は…バスケが好きやけん、したいなっておもっとる。」
パパは深刻な顔をしてる。
「でも、中学までって約束やったよな?なんで断らんかった?」
「最初は断ったっちゃけど、ひろくんが…俺らも手伝うけんって…」
バチン!!!
頬に衝撃が走った。
「なんやその言い方!!!!お前はひろくんをだしに使っとるやないか!!ひろくんのせいにするな!
お前はいつもそうだ!!そうやって自分は悪くないみたいな言い方をする!
お前はその言葉がなくてもバスケしたいんやろうが!!なっし、それを言わん!」
何も言えんかった。
そのとおりやったから。
「…ごめんなさい。」
「お前は俺が反対したら早々にバスケを忘れるんか?違うやろ。俺が頭ごなしに反対するとか思うな!条件付きだが許しちゃあ。」
「ほんと?」
「ただし、成績キープだ。キープ出来んようなら即刻やめさせる。」
「分かった。ありがとう。パパ。」
ただ、ただ嬉しかったんだ。
またバスケが出来るわけじゃないっちゃけど、バスケの近くにおれることが嬉しかった。


「…部活なら悪いほうへは行かんだろ。」

そんなことをパパがつぶやいとったなんて知る由もなかった。

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