(7)

「おぼろ?しっかりしろ!!お願いやけん!!」

ピーポーピーポー

誰かが救急車を呼んでくれたみたいだ。
俺はおぼろに付き添って、病院まで行った。
病院には知らせを受けたおぼろのご両親がいた。

「血液が足りません。ご家族の中でどなたでB型の方は…。」
おぼろの両親は悔しそうに首を横に振った。
どうしてだ!!
親だろ?
どうして彼女に血を分けてあげられないんだ!!
俺は耳を疑った。
「娘には黙っていたけれど、私たちは本当の親ではないんです…。」
そんなの嘘だろ?
いてもたってもいられなくて思わず聞いた。
「俺の血ではダメですか?俺もB型ですから!」
「しかし…。」
「お願いです!!」
「分かりました。ご両親もいいですね?」
「はい…。私たちでは何も出来ませんので…。」
「じゃあ君、こっちに来てください。」
そう言われ、俺は血液を抜いた。


「一命はとりとめました。多分明日には意識が戻るでしょう。
おせっかいなことかもしれませんが、今後のために娘さんには真実を告げられた方がよろしいかと…。」
「私たちもそれを考えていました。でも、この事実は娘にはつらすぎる!!」
「しかし、いずればれることです!!おっしゃられるのなら早い方がいい!!手遅れになってからでは遅いんです!!」
「しかし…。先生がそうおっしゃるのなら…。」
真実?
彼女の両親でないということがそんなにつらいことなのか?
医者はなんか知ってるようだけど…。
思わず聞いた。
「あの…僕も一緒に聞いてもいいですか?」
「…そうだね。いいだろう。君は娘の恩人だからな…。」

翌朝、彼女は目覚めた。
「おぼろ。大丈夫?」
「先輩…。心配かけてごめんなさい。私が飛び出したあまりに…。」
「ううん。俺もごめんな。俺がもっと注意しとけば…。」
「先輩は何も悪くないです。」
「話の途中失礼だけど、おぼろ。彼が君に血を分けてくれたんだ。」
「え?」
「本当のことを言わなければならない。おぼろにはつらいことだが。」
「何のこと?」
「おぼろ。お前は俺ら夫婦の本当の子供じゃないんだ。」
「う…そ…!!」
「今まで黙っててごめんな。彼がいなかったらおぼろは助からなかった。」
「俺たちは血をわけてあげることさえできなかったんだ…。」
「え…。」
おぼろは今にも泣きそうだ。
「黙っててすまないと思ってる。」
「私の…本当の親はだれなの?」
「…」
「ねえってば!!」
「本当の父親の名前は平岡大輔。」
!!!
その名前は俺でも分かった。
つい先日ニュースで見たからだ。
「嘘だ…嘘だよ!!そんなの嘘に決まってる!!」
おぼろは必死で…必死で…。
俺でも自分の父親が死刑囚だなんて信じたくない。
そう。
彼は死刑囚なのだ。
ドラッグにハマり、乗っていたバスの乗客全員を殺した凶悪犯だ。
とても有名な事件で、先日彼が死刑になったことをニュースで報じられていた。
「本当だ。
君の母親はどこのだれかも分からないキャバ嬢で、おぼろが生まれるとおぼろの父親である彼に押し付けて消えてしまった。
彼は育児に疲れ、ドラッグにハマり、おぼろが知ってる通り、大量殺人を犯したんだ。
その乗客の中にね、俺たちの小学5年生になる娘が乗っていたんだ。」
「!!!」
「僕たちは君の存在を知ると、養子に迎えたいと申し出た。
彼は憎らしいけれど、子供に罪はない。僕たちは本当の娘だと今でも思っているよ
。おぼろが百合の生まれ変わりだと思ってる。僕たちがね、おぼろに厳しく育てたのには理由があったんだ。
彼らのように道を外させないために。おぼろには普通の幸せが訪れるように。」
おぼろはこらえていた涙が一気に溢れ出した。
「お父さん、お母さん。話してくれてありがとう。でもね、今はちょっとひとりにしてほしいな。」
それを聞くと、二人は分かったといって外に出て行った。
「俺は傍にいたい。おぼろの傍にいたいんだ。」
俺がそう言うと、おぼろはぐしゃぐしゃになりながら泣いた。
「私も人を殺してしまうの?私もそんな風になってしまうの?」
おぼろの父親の言ったとおり真実はおぼろにとってあまりにもつらい現実だった。

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