(8)


*SIDEおぼろ

信じられなかった。
私がお父さんたちの子供じゃないってことも当然だけど、何よりも本当の両親の組み合わせが悪い。
死刑囚か…。
「私も人を殺してしまうの?私もそんな風になってしまうの?」
涙が止まるはずなかった。
「そんなことあるわけないし!!おぼろはおぼろやろ?親とか関係ない!!」
「でも…でも…。」
「でもじゃない!!親がそうだからっておぼろがそうなるとは限らんやろ!未来のこととか考えんで、今のこと考えり!」
「うっ…うっ…」

先輩の言葉はとても優しかった。
涙が止まらなくて、ひたすら泣き続ける私をそっと、先輩は抱きしめてくれた。
傍に先輩がいてくれて良かった…。
先輩がいなかったら私はきっと自殺したくなるくらい精神的に病んでいたと思う。
先輩が病んでいく、沈んでいく精神を一生懸命に引っ張り出してくれた。
だけど、落ち込むなっていうのが無理なことで、どうしても泣かずにはいられなかった。

「…せんぱい…ありがとう…。」
私は先輩に聞こえないようにそっと呟いた。
そして私はいつのまにか眠りについた。


すずめのさえずりが聞こえる…。
朝か…。
そう考えていたとき、ずきっと頭に痛みを感じた。
「泣きすぎ…かな?」

「おぼろ、起きた?」
「お母さん…。うん。今まで育ててくれてありがと…。私…まだお母さんの娘でいていい?」
「当たり前!!おぼろは私の自慢の娘やし!!」
「へへ、自慢の娘か…。」
「何気持ち悪い笑い方しとうと!!良かった…。おぼろが私たちから離れていくっちゃないやろうかと思ったら…。」
お母さんはぽろぽろ涙を流しはじめた。
「私もね、お母さんたちの娘でおれるのが嬉しい…。先輩がいなかったら、私、こんなに立ち直れてなかった…。」
「翔くんのおかげやね!…さ、もう退院やけん、帰る準備せなね!!」
「うん!!」

今までと同じとはいかないけど、この現実を認めなければ前に進めないから…。
でもね、そんなに現実は甘くなかったんだ…。

あの日から数日が過ぎた。

先輩と登下校したり、デートしたり、一見、幸せな日々だった。
退院した日からずっと頭が痛いの。
なんかね、勘だけど、大きな病気なんだと思う。
そんな悪い予感がするんだ…。
私、幸せになっちゃ、ダメなのかなぁ。
先輩と幸せになっちゃダメなのかなぁ。
病院には行けない…。
私の悪い予感が当たるのは嫌だから。
できるだけ先輩の傍にいたいから。
どんなに頭が痛くても、痛くないふりをするの。
どれだけ痛くても…。



その時は来た。
先輩と二人で百道浜の海岸を歩いた。
たわいもない話をしながら。
「少し…疲れちゃった…。」
「なら、あそこに座ろ。」
そう指差したのは防波堤。
二人でそこに座りそっとキスをした。
私は先輩の方に頭をのせた。
「疲れた?」
「…」
「寝ちゃった?」
「…」
「おぼろ?こんなところで寝たら風邪引くよ?」
「…」
「おぼろ?起きり。」
「…」
「おぼろ?おぼろ?」
「…」
翔はおぼろの顔をみた。
おぼろの真っ白な顔からすぐにおぼろの異常が分かった。
すかさず、携帯を取り出し、救急車を呼んだ。
おぼろの両親にも連絡した。
呼吸もしてなければ、脈もない…。
脈がない?

ピーポーピーポー

救急車が到着して、救急隊員が異常を調べた。
「…残念ながら、瞳孔が…。」
それはおぼろの短い人生の幕が閉じた瞬間だった。

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