(3)

本を開いてみた。
また言葉が増えてないか確認するため。
たくさん増えてる…
「その者、蒼き異国の衣まといて異世界から降り立つ。
向かわんとするもの敵なし。
蝶が舞ってるかの如く敵を倒さんとす。
その者、動物の心聞こゆ、蒼き狼なり。」
また本が光ると思った。
けど、光らなかった。
蒼き狼…か。
これって私のことだよね。
そう思っていると目が霞んできて、気を失った。


目を開けたら白い天井が見えた。
そっか、気を失ったんだ…。
ここ、どこだろう。
攫われたのかな?
「お気づきになりましたか?」
驚いた。
人、いたんだ。
「驚きになるのも無理はありません。目を覚ますと自分がいた場所と違う場所にいるのですもの。」
ゆっくりとした口調で女の人が言った。
「あの、ここ、どこですか?」
「コーラーの王都、デメテル城です。」
「…そうなんですか…。」
ひとまず、コーラーの城なら安心だ。
「今から陛下をお呼びしますので、ここから離れないでくださいませ。」
「分かりました。」
そう言って女の人は部屋を出て行った。
そっか、運命の少女だからか…。
でも、私が本当に運命の少女なのだろうか。
本には蒼き狼としか書かれていない。
国を助けるなんて大それたこと私に出来るわけがない。
そんなことを考えていると、誰かが入ってきた。
「具合はいかがですか?」
きれい…王様というより王子だよ…。
同じくらいの年かな?
「はい。大丈夫です。」
「私たちはあなたを探しておりました。蒼き狼さん。」
「なぜ、それを?」
散々運命の少女と言われたから、お前は運命の少女だ!国を救えとばかり言われるのかと思っていた。
「運命の少女とは民が言っていることです。予言では異国の服を着た蒼き狼が国を救うとしか言われてませんから。」
「私の持っている本では国を救うとは書かれていません。ただ、動物の言葉が分かり、無敵だとしか…。」
「では、もう一度本を開いて見てください。」
言われたとおりにした。
「!!!」
「さあ、読んでみてください。」
「…その者、蒼き異国の衣まといて異世界から降り立つ。
向かわんとするもの敵なし。
蝶が舞ってるかの如く敵を倒さんとす。
その者、動物の心聞こゆ、蒼き狼なり。
セルシウス1850、コーラーの力となり、救世主とならん。」
「わかりましたか?あなたは動物の声が聞こえる。そうでしょう?」
「…確かに動物の言葉が分かりますが、私が救世主だなんて…。」
「あなたが殺した盗賊、賞金首がこの国で2番目に高い極悪人です。」
まさか!あんな雑魚が!?
「向かうもの敵なし。これで理解して頂けますか?」
「…はい。」
「では、預言者を連れてきています。お会いしてもらえますか?」
「…はい。」
「入りなさい。」
そう陛下が言うとひとりの老人が入ってきた。
「未羽さん、長旅お疲れさまです。」
なんと古本屋のお爺さんだった。
「お爺さん!!」
「驚かせたでしょう?本当はこの世界の住民だったんです。」
「…驚きました。いきなりこの世界に来て盗賊に襲われるわ、動物の声聞こえるわで。」
「あなたに出会ったときから確信しておりました。この子が私が予言した子であると。」
「でも、私には何にも力がありません。一体何をしたらいいか…」
「それは予言に出てます…。未羽さん、あなたは騎士になるのです。」
「えっ…。」
「あなたはこの国、いや世界一の剣豪になると予言に出ています。そして弓の名手であるとも。武器を奪っても体術で相手を倒す、最強の騎士であると。」
言葉が出ない…。
だって剣道だって、弓道だって、合気道だってしていたから。
もう、状況を受け入れるしか…。
「分かりました。騎士として働きます。しかし、女の騎士はいるのでしょうか。」
「残念ながら、あなただけです。」
「そうですか…。」
「気を病むことはありません。あなたには騎士の宿舎ではなく、この部屋で過ごしてもらいますから。」
と、陛下は口をはさんだ。
「申し遅れました。私はアレウス25世です。」
「私は井上未羽と申します。陛下はおいくつなのでしょう。」
これが聞きたかった!!
「あなたと同じ17です。」
「えっ!!!」
「陛下は賢王であります。民からも慕われておりますが…。あっ、私も申し遅れました。真の名をヘルメスと申します。」
「ヘルメス。続きは晩餐の時に話そう。ミウさんは沢山のことを受け止めなければいけないのだから。」
この人は本当に賢王なのだなと感じた瞬間だった。

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