(5)

私の仕事といったら、騎士の稽古、この国の勉強、盗賊の討伐、魔法の稽古だった。
私は、近衛兵の隊長に選ばれ、軍のNo.2になった。
No.1は軍師であり、魔法使いのヘルメスだった。
彼はご存知の通り、預言者でもある。
彼の的確な指示が幾つもの戦いを制してきたとか。
武術はできるがまだまだ魔法は幼稚園児レベルな私。
ここでも心を開けるのは彼ぐらいだから、魔法の稽古はとても好きだった。
元々勉強は好きなほうだし、何よりも彼との時間は古本屋にいるときと同じで心地良かった。

でも、今からは稽古をつけにいく。
訓練場に入ると、自称私の弟子が沢山準備運動を始めていた。
元々この国は魔法大国で、騎士はそれ程脅威では無かったという。
しかし、魔法は中距離の戦力。
この国の魔法使いは次々に死んでいった。
で、残りはヘルメスのみ。
他の国にも魔法使いを戦力とみなしていないようで、この世界で魔法使いはヘルメスのみだという。
その彼になぜ魔法を教えてもらっているのかというと、戦法として幅が広くなると思ったからだ。
でもまだ実践向きじゃないんだな、これが。

「師匠!お手合わせをお願いします!」
この男はフォボス。
筋がいいからよく体で覚えさせた方が早い。
「あまい!!そこは身をかがめたら相手の思い通りだ!!」
竹刀をフォボスに叩きつけた。
「いって〜!!師匠!!お手柔らかにお願いしますよ!!」
「なら、手抜いてもいいの?」
「師匠意地悪っす!!」
「はいはい。じゃあ、フォボスは体力づくりをしながら手合わせを見てなさい。最後にまた手合わせしたげるから。」
フォボスは鍛えがいのあるやつ。
しかも人懐っこくて、ヘルメスの次に気心が許せる。
飲み仲間でもあるから。
次々に手合わせを終え、再びフォボスとの手合わせ。

今回はわざと、手を滑らして、竹刀を落としてみた。
フォボスはこの時を待ってたとばかりに竹刀を振り落としてくる。
甘い!!
私は身をかがめ、手刀でフォボスの柄を叩き、竹刀を落とさせ、得意の柔道で投げた。
合気道で全国制覇してたからといって柔道が出来ないわけがない。
昔、密かに研究していたから。
フォボスは呆気にとられていた。
「まだまだね。私がわざと竹刀を落としたことに気付かないと駄目。相手をもっとよく見なさい。」
「…はい。って、そんな戦い方があるんすね!!さっすが師匠!」
「殺しにルールなんてないわ。相手を油断させることも大切よ。」
「あ〜なるほど。ってか師匠はどれだけ武術が出来るんですか!?」
「あと、弓は得意。」
「じゃあ、今度ある弓の力試しにでるんすか!?」
「賞品が良ければ。」
「たしか…氷狼でしたよ?」
「ん〜なら出る。」
「弓も優勝したら剣はあの名刀蒼狼で、弓は氷狼。すっげー!まるで運命の少女みたいっすね。狼なんて。」
なかなか鋭い。
まだ私が蒼き狼だってこと公表してない。
狙われるからね。
まだ軍を動かせる時期じゃないからね。
まだ軍としては弱い。
私がいることで他国は動揺する。
軍の底上げされたら脅威だから。
始めの時期にしかけた方が勝率は高くなる。
だからまだ、国家機密。
「偶然よ。狼なんて。」
「でも師匠がそうだったらいいなぁって思います。」
「ありがと。ごめんね?運命の少女じゃなくて。」
素直にそう言うと、フォボスは真っ赤だった。
「師匠…笑ったほうが素敵です。」
周りにいた自称弟子たちも頷いていた。
顔を真っ赤にして。
「師匠も女だったんですね!!!!!!!」
失礼!!
もう我慢ならん!!!
「そこに一列に並べぇ!!!!!!!!!!!!!!!!!!片っ端から潰す!」
「「「「「「「勘弁してくださーい!!!!!」」」」」」

騎士たちと仲間になった瞬間。
こいつらは私を飾りとして見ない。
ただの向上心の塊。
初めて、仲間だって思えたの。

あの後、飲み会して、どんちゃん騒ぎ。
皆、私のこと、師匠とは呼ばなくなった。
私が対等でありたいと言ったから。
仲間だから、師匠って呼ぶなといったの。
皆私のこと、ミューと呼ぶ。
それがとても心地良かった。
こっちにきて良かった。
本当にそう思える。

お母さん、お父さん、おじいちゃん。
私、幸せだよ?

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