(7)

竹刀をもち、決闘の場に立った。
ルールはない。
ただ一撃を与えたものが勝ち。
今回は本気を出さなければ…。
そんな気がした。
アレウスは彼を軍にいれたら、私のことを公表するだろう。
気を引き締めた。
「はじめ!!」
互いに見合う。
仕掛けてきたのはアトラス。
彼は儚げな顔立ちをしている。
前の世界で言うイケメンだ。
強かった。
それはアレウスよりも。
防戦しか出来ていない。
「なんだ?もう負けか?」
悔しい。
私は飛び上がった。
アトラスはここぞとばかりに竹刀を差し出す。
ふっ、掛かったな。
私は飛び上がると相手の竹刀を自分の竹刀ごと振り払い、くるっと回転して、着地しつつ相手の手首を持ち、投げる。
「やめ!!勝者、ミュー!!!」
歓声が聞こえる。
アトラスは呆然としていた。
アレウスが審判のマイクを横取りし、話し始めた。
「アトラスの負けにより、彼を騎士隊隊長に任命する!」
ざわめいた。
「隊長はミューがいい!!」
「なんで元盗賊なんだ!!」
という言葉が飛び交う。
「それと同時に彼女を総指揮官に任命する。彼女はわが国を救う蒼き狼なり!!」
その言葉を聞くと民衆は歓声をあげた。
私は、その宣言の間に正装(前の世界の制服ね)に着替え、姿を現した。
まだ、彼の言葉は続く。
「その者、蒼き異国の衣まといて異世界から降り立つ。
向かわんとするもの敵なし。
蝶が舞ってるかの如く敵を倒さんとす。
その者、動物の心聞こゆ、蒼き狼なり。」
その言葉で一気に沸いた。
「時は満ちた。民よ、これからは戦乱の時代となる。心せよ!!」
そう言うと、マイクを渡してきた。
なにか話せということだろう。
「私は…あなた方を守る。私の命に代えても!!!!」
この時の興奮ったらない。
外はお祭り騒ぎ。

私はと言うとアレウスといた。
「すごかったね。」
「民も喜んでいた。」
「なんか心の底から思っていたことが自然に口にでたの。私を必要としてくれる、この人たちを守りたいって。」
「前の世界で何かあった?そう君が思ってしまうような。」
「私ね、…。」
今までのこと全部話した。
アレウスにはなぜか今までのこと、胸の中で溜め込んでいたものが吐き出せた。
「我慢しなくていいんだよ?」
その言葉で、枯れていたと思っていた涙が一気に溢れ出した。
かれは私が落ち着くまでずっと抱きしめていてくれて、その温もりが心地よかった。

「なんだか、ごめんね?泣いちゃって。」
「ううん。ミューもやっぱりただの女の子なんだなって思えて嬉しかった。」
「何それ。私が女の子じゃないと思ってたみたいな言い方。」
「だって弱いところみせなかったじゃん。」
「それが普通だったから。」
「というか、ミューにそんな想いさせたやつ、懲らしめてやりたいな。」
「ありがとう。」
「俺はそんな想いさせない!」
「アレウス…。」
「ミュー、いや未羽。好きだ!!」
答えなんて一つしかないよ?
私だって気付いたら好きだった。
だから前の世界のこと話せたし、泣くことも出来た。
「私も…。」

夕日で赤くなった空の下、私たちは恋人になった。
どこかで覚悟していたんだ。
私は戦に出向く。
もしかしたら死ぬかもしれない。
もしかしたら元の世界に戻るかもしれない。
それでも、言いたかった。
あなたといる時間が短いとしても、あなたを悲しませたとしても言わずにはいれなかった。
この恋に賭けているの。
もう出来ないかもしれない、この恋に。

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