ある日の出来事。
マーガレットはいつもの如く貧しい農村に住む足腰の弱いおばあさんたちの代わりに大きな町で花を売りに来た。
「お花はいりませんか?」
勿論、裕福なこの町の人は見向きもしない。
「今日もダメか…。」
彼女は売上金だといって、少しずつ自らのお金を切り崩してお婆さんたちに渡していた。
回りくどいことをせずに普通にお金を渡せばいいだろうと思う人もいるだろう。
けれど、そんなことはしたくなかった。
そんな薄情な、冷たい人間にはなりたくなかった。
ドンッ
「わっ!!」
バサ…
かごの中にあった花々が一面に広がっている。
生憎雨上がりで、地面は砂というよりは泥に近かった。
「あちゃー。」
「すいません。あの…大丈夫ですか?」
ふと声がするほうを見ると、いかにも騎士ですと言わんばかりの格好の人物が立っていた。
「大丈夫です。」
「こちらが余所見をしていたばかりに…。」
「いえ、私のほうもぼうっとしていたのも悪いですし。」
「あの…。よろしければ全て買い取ります…。」
「いいえ。そんな…結構です。もう、売り物にはならないものですし、悪いです。」
「しかし、その花どうするのですか?」
「泥を落として、私の自室にでも飾ります。」
「なら、その泥を落とす作業を手伝わせてください。」
「でも、よろしいのですか?お忙しいのでは?」
「いえ、今日はもう終わりました。だから、いいでしょう?」
「それなら…構いませんわ。」
「あの…お名前は?」
「人に名前をたずねるときはまず自分から名乗ってから…ではなくて?」
これは父から口厳しく躾けられたことだ。
「はは、そうですね。私はセシルと申します。」
「私はマーガレットです。」
これが哀しい恋の始まりだった。