(4)



「マーガレット。明朝に政府軍にしかける。戦が長引いてわしは死ぬかもしれん。
「父様…私もどうか連れて行ってください。」
「ならぬ。戦場は遊びではないのだ。分かっておくれ。お前を危険な目に遭わせたくないのだ。」
「でも、学校で剣術を習いましたわ。私だって役に立つかもしれません。」
「分かっておくれ。マーガレット。親のわしより早く死ぬのをわしはみとうない。」
「私だって、父様が死ぬのなんて嫌です。ここは諦めますが、どうか約束してくださいませ。生きて帰ることを。」
「約束を果たせるか、自信はないが…約束しよう。」

マーガレットは父の無事を願わずにはいられなかった。
母親が彼女を生んだと同時に死に、彼女の家族は彼だけだったからだ。


「また、逢いましたね。」

いつものように花を売っているときに現れたのは、紛れもなくセシルだった。

「こんにちは。何か用ですか?」
「用か…。君に逢いに来るのに用がなければいけないのですか?」
「ええ。今は仕事中ですから。」
「なら、この花、全て買います。」
「え?」
「これで足りるでしょうか。」

そう言ってマーガレットに渡したのは1万ドル。
足りるも何も足りすぎる金額だった。

「こんなに沢山、いりません。」
「いいえ。受け取ってください。私はあなたの今日のこれからの時間を買うんですから。」
「どういうことです?」
「この買った花、受け取ってください。あなたへのプレゼントです。」
「ですから、どういうことだってきいているんです。」
「言いましたよね?私は貴女に興味があります。」
「またご冗談を。」
「冗談ではありません。では言い方を変えます。私は貴女が好きです。初めて見たときから。」
「え…。」
「私はもうすぐ仕事であなたにお逢いすることができません。あなたに逢うのがこれが最後かもしれません。どうか今日、一緒に
過ごしてくれませんか?」

これはセシルが政府軍で自分の父親たち反乱軍と戦うことを意味する。
恋することが許されぬ相手。
しかし、マーガレットもまたセシルと同じ気持ちだった。

セシルは分かっていた。彼女は反乱軍側の人間だということを。
許されぬ相手だと分かっていても募るのは彼女を思う恋心ばかり。
だから今日のこの時間だけでもただの男でありたかった。

「分かりましたわ。」
「ありがとうございます。」

これが二人の最初で最後の恋人としてのデートだった。


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